作者:薬丸岳
出版社/メーカー:講談社

 第51回江戸川乱歩賞受賞作。
 文章はしっかりしているけど、とても地味。最初の十ページ程度は読者を作品に引き込むため気を遣って書かれているけれどもそれだけ。けれどもこの小説には素晴らしい点がある。構成が桁外れに優れている。中盤以降は構成で読ませるタイプの文章になっている。
 万華鏡は一つの模様を様々な角度から多重に映し出しそれが重なり合い綺麗な模様を作る。この小説は万華鏡と同じ構成になっている。少年法とその問題点について様々な角度から描き、それが多重に用いられ綺麗な模様を作品の上に描き出す。一文一文、一節一節、一章一章は平凡に見えても、それらが重なりあい、気がつくと非常に綺麗な模様を作り上げ、読み終わった瞬間に読者を作品世界の虜にしてしまう。
 おそらく最後の終章がなければ、この小説はよくありがちな作品になっていた。最後の終章により、欠けていた鏡がはまり、万華鏡は綺麗な模様を映し出す。
 この小説の表紙は万華鏡の描く模様になっている。万華鏡というアイテムは、この小説自身と、作者が小説で描こうとしたものを表しているような気がしてならない。