神栖麗奈は此処に散る

 時間軸は前作の前の話。人間ではないものの存在としての神栖麗奈の誕生までを描いている。
 実に惜しい作品。まず驚くのは1章の神がかった出来の良さ。地の文や会話文を用いて、直接、間接を問わず、催眠誘導的な技法を凝らして描かれている。そのため作品世界へとぐんぐんと引き込まれる。2章もそれなりに良いでき。1章、2章は前巻での神栖麗奈の存在感も相まって読者を作品世界へと引き込んでくれる。問題は3章以降にある。
 3章に至って、それまで用いられていた、自然会話文や地の文で用いられる存在を気づかせない高度な間接的催眠誘導が影を潜め直接誘導だけの単純な技法だけとなっている。直接誘導の欠点は、人によって誘導が効きにくいことにある。そのため間接誘導を間に挟み効果的に用いる必要があるのだが、この章ではそれを行っていない。
 そのため作品への吸引力が急激に弱くなり。冷めた目で文字だけを追うことになってしまった。非常に残念で惜しい作品と言える。
 冒頭に力を入れることが重要なのは理解できるが、そのような事は中盤がだれても終盤挽回できる作家のみに許されることである。残念ながら本書では終盤で中盤の遅れを巻き返すほどのパワーが無かった。
 案外、著者自身が催眠誘導による読者の誘導がどれほど重要なのかを気づいていないのかもしれない。だが、本書の素材の一つとして催眠誘導があるだけに、そのようなことはあり得ないと思うのだが……。