夏と花火と私の死体

作者:乙一
出版社/メーカー:集英社

 もう何度読んだかわからない。年に数回は読み返す。そして読む度に新しい発見がある。GOTHもいいけど、個人的には乙一の作品の中ではデビュー作である本作が一番好き。間接誘導などの心理学的な効果をうまく用いた描写や直喩など、高度な技法を用いているにもかかわらず、文自体はあくまでもシンプル。そしておそらくは、それらの技法を計算せず、感覚のみで用いている。
 GOTHの場合には、トリックなどミステリ的手法を計算して使ってるのがわかる。でも、この作品は計算ぬきで作者の感性が剥き出しになっている気がする。
 小説家は、さまざまな事を計算して頭の中のイメージを文字に起こし、文章を構成し、私達読者にさまざまな感覚を呼びおこさせてくれる。でもこの作品は、そういった計算以前に、作者の感覚がそのまま作品に現れている。そしてその結果として、高度な技法へとごくごく自然に至っているように見える。
 そういう意味では非常に貴重な作品だし、それゆえに私の心に深く染みこんでくる。