第2章まで終わりました

 まず良いと思われる点について。まだ2章を終わった段階ですが伏線が相当ありますね。しかもそれと分かる形の伏線と、気付きにくい伏線も大量に張られています。分かる人には分かる心理学的な叙述トリックも大量に含まれています。ただそれらを最終的にうまく収束させることができるのか、その点に関しては少し心配です。
 次に読者に対する感情演出についてですが……。
 もったいないというか、惜しいというか……複雑な心境です。

 ただしその場合には主人公視点による感情移入を促すのは非常に難しくなるでしょう。なぜなら部外者として感動的なお話を外から眺めることになってしまう為です。つまり私達読者としては主人公ではなくヒロインの行動に感動する形の話になるのでしょうか。

 前日、上記のように述べましたが、そのあたりはライターさんも意識していたようで、クライマックスでは主人公ではなくヒロインとその周囲の人々を上手く動かして感動する話に持っていくことを試みています。
 実際、そこそこいい話にはなっているのですが感動が薄めなのです。
 2章においてヒロインの取る行動がそのヒロインらしくない部分があるのです。もちろんそれが重要なポイントでなければ、そういった部分があってもいいのですが、演出上かなり重要な部分だったりします。
 以下の内容についてはネタバレになるので2章が終わるまでは見ない方がいいでしょう。









 問題となるのは、ダイヤを換金して法月のおっちゃんにお金を持ってゆき、そのお金を床にたたきつける場面です。
 この場合、彼女の脳裏に浮かぶ選択肢として、今あるダイヤを換金した現金を、為替や株などハイリスクハイリターンの取引にぶち込み元金を10倍や100倍なりにして、まなの自由と自分の義務解消の両方を獲得するという発想が浮かぶはずです。なぜなら彼女はいままでそうやって生きてきたのですから。
 彼女の最も醜い部分を正面から描き、その葛藤を描き、彼女を落とすところまで落とし、それで苦悩し、主人公もさちもそんな彼女でも見捨てず、彼女がはいずりながらも努力し最後のクライマックスまで持って行けば……、それであれば歴史に名を残す名場面になっていたでしょう。
 ようするに彼女を落とすところまで落としていませんし、あまりにも彼女らしからぬ行動です。彼女らしい行動を描くのにライターさんに労力が必要なことは理解できますが……。
 そういうわけで肝心な場面で彼女らしからぬ行動をとったせいで、私の中では「よくある感動系のお話」程度に感動が薄まってしまいました。この点は残念です。
 とまあ、きつい事を書いてしまいましたが、ストレスのかからない読みやすい文ですので、ちょっといいお話に飢えている人にはいいのではないでしょうか。
 後の章はまだ見ていないので何とも言えないのですが、感動する話ではなく、ちょっといいお話を読ませることに、この章の目的があるのかもしれません。
 あるいは、そういった感動系のお話は、過去作にもたくさんあるわけですし。感動系と思わせておいて実はミステリ的な楽しみ方をする作品なのかもしれません。
 大量の伏線らしき文章を見るにその可能性も高そうです。