3章まで終了

 3章ですが終盤にさしかかるまでは退屈です。
 中盤で、主人公が活躍する場面があるのですが、本来燃えるべき場面で燃えません。主人公が何でもありのため当然でしょう。
 終盤においてふたたびヒロインがヒロインらしからぬ行動を取る場面があります。
 ですが2章とは異なり3章でのこの行動は読者の感情をより強く動かすための演出であり、必要悪かもしれません。
 そして伏線っぽい文章てんこ盛り。全体としてはかなり問題が有りそうな作品ですが、それでも現時点ではそこそこの良作です。


以下、3章のネタバレ





 このゲームでは様々な葛藤や対立状態が出てきます。経営判断などで用いられる思考法ですが、対立状態に見える場合、そもそもの仮定、あるいは目的設定が間違っている可能性があるとする考えがあります。その間違った仮定や目的に縛られるため、本来の解決策が見えなくなっているという考え方です。
 ではどのようにして正しい解決策を導けばいいのか。その答えとして「思考プロセス*1とよばれる手法があります。思考プロセスは経営における判断だけでなく、マーケティングや教育などあらゆる問題解決に応用可能であると言われています。
 ゲームの中でTVを売る話が出てきましたが、あの話にせよ、仮定が間違っていますし、灯花の選択における悩みにおいても「親権を持つものと一緒に生活しなければならない」「京子さんと実の両親は仲良くすることができない」という間違った仮定が存在しているわけです。
 これらの仮定をすり込ませるのがライターさんのテクニックであり。トリックを仕掛ける際にも、洗脳を行う際にも必要な事です。
 もちろんこのゲームにおける主人公は経営の才能があり心理学における洗脳テクニックも持っているため、このような思考法は当然身に付いているはずです。
 主人公に経営の才能があるのなら灯花の悩んでいる根本原因が「間違った仮定」によるものだと気付くはずなのです。
 主人公も法月氏も灯花に「実際の親を選ぶのか?」「育ての親を選ぶのか?」と選択肢を与え「どちらかを選ばなければならないことはある」言い「選ばなかった方とは生活できない」という暗示を与え続けています。
 ちなみに暗示を与えることにより、催眠状態は深化してゆきます。
 このような深い暗示から抜け出すのは非常に困難なのですが、最後に灯花は抜け出してしまいます。
 京子さんと両親と灯花で一緒に仲良く食卓を囲みたい。それが灯花の夢で、その夢を実現するために彼女が我が儘を言います。
 やさしい彼女が我が儘を言うことは本来あり得ないのですが、ライターさんは一緒にいたいという彼女の気持ちを表し、より強く読者の心を揺さぶるため彼女に我が儘を言わせ、抜け出すはずのない暗示から抜け出させたのでしょう。
 2章では、さちのあり得ない行動により感動を薄めてまいましたが、この章のような読者の心を強く揺さぶることに意味を見い出すあり得ない行動については、私は必要悪でありぎりぎりセーフであると考えています(要は結果論になってしまいますが……本当はもっと良い方法もあるのかもしれない)。

 一方、さらに分からなくなったのは主人公のキャラクター設計です。
 疑問なのは、主人公はなぜ灯花を洗脳しようとしたのか?(あるいは洗脳しようとする結果となってしまったのか)という点です。考えられる可能性として。
  1.すでに経営の才能が失われている。結果として知らずに洗脳しようとした。
  2.実は鬼畜野郎で、洗脳されている下々の者を見て喜びを感じている。
  3.そこまで考えて書いてない。単に書くのが楽だから経営の才能を持たせた。
 などがありますが、1.の可能性が高そうです。3.の可能性もありそうですが、結構あちこちに伏線を張っていますし、ミステリ書きは、似たような思考法になれているでしょうから、3.はあまり考えられないような気がします(過大評価かもしれませんが)。

 章が進むにつれ、さらに主人公にどんどん属性がついているあたり、かなり心配です。ライターさんに誠実さを感じられないような……。
 取りあえずまだやっと一周目の半分程度でしょうし、残りを続けるとしましょう。

*1: 思考プロセスについて詳しくしりたければ、エリヤフ・ゴールドラット博士の著書である「ザ・ゴール」、「ザ・ゴール2」の二冊の小説を読めば理解が深まるでしょう。エンターテイメントとしても面白いのでお勧めです。
 簡単に内容を紹介すると、赤字を垂れ流しているさえない工場長がリストラされそうになりながらも、CEOにまで上り詰める話です。
 小説の内容は気持ちのいい成功談ですが、その内容は「制約条件の理論(TOC)」と呼ばれる生産管理手法と、マーケティングや教育、経営判断などに応用できる「思考プロセス」と呼ばれる思考法を分かりやすく説明したものになっています。
 この小説は博士がコンサルタントを行い、様々な企業を立ち直らせてきた実績を元に書かれているようです。
 それ以外にも「チェンジ・ザ・ルール!」や「クリティカル・チェーン」もけっこう面白いです。一読をお勧めします。
 前者は、「コンピュータシステムを導入するだけじゃ利益は出ないよ。じゃあどうすればいいの?」っていうお話。後者は「プロジェクトはどうして遅れるの? どうやって管理すればいいの」っていう話。
 この二冊も博士の経験を元に書かれている小説です。著者略歴を見ると元々は物理学者のようです。