坂の上の雲(1)〜(8)
作者:司馬遼太郎 出版社/メーカー:文藝春秋 |
最初の方の巻は、正岡子規*1、秋山好古*2、秋山真之*3を中心に物語りが回ってゆく。時代は明治維新〜日露戦争の日本。
国も民も貧しく、主たる産業は稲作のみ。イギリス、フランス、アメリカ、ロシアなどの列強は次々とアジアを植民地化し世界に覇を唱えている。帝国主義こそが正義であり、帝国主義こそが国を豊かにすると信じられている。そういった時代に民族の滅亡を掛けて富国強兵に励む人々。だがその状況にあってなお、人々の精神の根底にあるのは希望を失わず進んでゆくそこぬけの明るさである。自らの頑張りが国を興し、立身出世に繋がると感じられた時代の話だ。
第三巻以降は日露戦争。戦艦も持たずぼろ汽船に大砲を積んで戦った日清戦争からわずか10年。日本は10年の間に世界の海軍大国の末席に名を連なるほどに成長する。
しかし相手はロシア。日本の10倍という国力と世界最大の軍事力を持つロシアを相手に、どのように戦い勝利したか。勝つためにいかに知恵を振り絞り手を尽くしたか。火力が足りなくて、国内に据え付けられている砲台をコンクリートごと引っぺがして旅順へ運んだり、艦船の砲を取り外して陸戦で用いたり、騎兵なのに馬から下りて戦ったりとその努力は涙ぐましい。そしてロシアの革命勢力への支援。
一方、有用な意見を机上の空論と決めつけ、我を通し、正面からロシアの要塞に突撃を繰り返し、無駄に兵を死なせる参謀もいる。
誰も勝てるとは思っていなかった戦争。薄氷を踏む思いでかろうじてたどり着いた勝利。その勝利がいかにきわどく紙一重だったか、この小説でよく理解できる。
戦争シーンの描写は銀英伝を彷彿とさせるものが多い。田中芳樹氏はこの作品を読んだ上で銀英伝を書いたのかもしれない。とっつきにくい人は江川達也の日露戦争物語を先に読むのもいいかもしれない。